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小さいころから周りにはキラキラした世界が広がっていた。
物心ついたときにはもう父親はお金持で、たくさんの贅沢とたくさんのわがままを許された。
末に生まれた唯一の女だったから余計にもてはやされて。
「まあ、可愛いお嬢様だこと」
「どうもありがとう」
笑顔で塗り固めた顔の下で、いつも相手の笑顔の仮面の下の顔を想像していた。
このわがまま娘は、とでも思っているだろうかと。
私の周りの世界は、キラキラキラキラ、綺麗な世界。
私の周りの世界は、ドロドロドロドロ、嘘で塗り固めた世界。
人間って、利害が絡むとそんなものね。
別に私はそれを、憐れみも悲しみもしていないわ。
「こら、このわがまま娘」
嘘が渦巻いて雑音となっていく私の世界の中で、全ての音をかき消して響く声があった。
こつんと頭を軽く小突かれて、振り返るとその声の主はそこに立っていた。
「素直なのは奥様の前だけか?まったく」
ふう、と笑ってため息をつく。
その笑顔は仮面?
「あら、言いたいことをそのまま言ってるんだから、存外素直だと思うわ」
言うと苦笑する。
「ものは言い様だなぁ、言いたいことが全部わがままなんだけど」
本当はね、そのわがままは、言いたいことを全部隠すための嘘なのよ。
「あんま好き放題してると、お嬢様でも痛い目見るぞ?」
本当はね、キラキラ輝く宝石よりも、もっと温かいものがあるって知らないように
自分を目隠しするための嘘。
「ソティスにそんなこと言われなくたって、わかってるわよ!」
目をそらすために、ふいと目線をそらしたけれど、いつの間にかまた振り返りたくなった。
ソティスとファジュルって仲がいいのね。
兄妹?親子?親友?恋人?
そういう関係、なんて呼ぶの?
聞いたら、『呼び方がもうわからないから、大切な人ってことで』って言ってた。
きっと彼女には、まだまだ沢山の、大切な人がいるんだろう。
笑う顔は、仮面よりももっとずっとずっと眩しい。
『私もね、お母様が大好きよ。
私に弓を教えてくれた。美しいのに、豪傑で気丈な人。
お父様だって頭が上がらない。
私に強さを教えてくれた人 』
『末のお兄様も好きよ。
いつだって優しかったもの。
激しく怒ったりしないけど、いけないことは正してくれた。
言うこと聞かないこともあったけど、それでも私に優しさをくれた人』
昔の私はそれしか答えを持ってなかった。
だけど。
「ねえお母様、私は、私の道を歩んで見ていい?
これは、すごいわがままかしら。 」
にっと力強く笑って母が頷く。
「自分が決めたのなら、その心に従ってみるがよろしゅうて。
妾はそなたを信じて止めぬゆえ、やれるだけのことをやってみりゃ」
短く頭をなでた。
「お父様が強く反対するであろうが、それを一蹴するくらいは力添えするえ」
と、悪戯っぽく笑って。
『私もね。』
『ソティスが大好きよ。
私をリーフって呼ぶもの。
お嬢様でも、リーフ様でもない。
そして、私をリーフとして見てるもの。』
『ファジュルはね、気に入らない。
いつもにこにこしてるのは、私が知ってる仮面に近い時がある。
ソティスがつらい思いをしてる時、ただ見てただけだったのも許せない。
でも、自分も同じように辛い顔をして『見守って』たのも知ってるし、
人前だと寝ててもすぐ起きる癖に、ソティスの前ではぐっすり寝続けるのと同じように
いつの間にか私がいてもそのまま寝てるようになったから
だから、プラスマイナス0ってことにしておいてあげる。
そんなこと、本人には言わないけど。 』
今は、答えが少しだけ増えた。
私は、この答えを得るためにあのキラキラした世界から逃げてきた。
凄く危険なところにいるって知ってるけれど、
今の方がずっと温かい。
だからきっと、これからも答えが増えると信じて。
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補足:父親はリーフを溺愛してたけど、エゴが入ってる
上に兄が3人。上二人は愚兄だと思っている(まあ実際ダメ男)
男に態度が厳しい、のはこの3人+αのせい。
+αの部分はソティスが絡んでくるので割愛で。
母親は武を重んじるどっかの街の貴族系統。
成金だった夫に、頼りないと嫁いだような人。
ゆえに父は母に頭が上がらない。
母に好きにさせておけと釘を刺されたけど、リーフが可愛くてたまらないので
そっと帰ってこいコールを送り続けてリーフに「うざい」の称号をもらった形。
成金なりの汚いことも少々やってきた。
護衛を選んだのは、ソティスとファジュルが護衛だったせいかなあ。
誰かをお金以外の力で守ろうとした時、護衛が一番手っ取り早いと思ったから。
ちなみに、今は親父の情をいいことにポケットマネーを好きかって拝借する日々。
でも以前より額がずっと減ったのは稼ぐ大変さを覚えたため。
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